医院ブログ

2025/12/18

矯正治療で使うアンカースクリューとは?効果・痛み・リスクを専門医が説明

ブログをご覧の皆さん、こんにちは。
姫路はま矯正歯科 院長の濱です。

本日は、近年の矯正治療において非常に重要な役割を果たしている
**「歯科矯正用アンカースクリュー」**について、詳しくお話ししていきたいと思います。

歯科矯正用アンカースクリューは、
矯正用インプラントテンポラリーアンカレッジデバイス(TAD)
略して「TAD(ティーエーディー)」など、さまざまな名称で呼ばれることがあります。

本ブログでは、日本の医療保険上の正式名称である
**「歯科矯正用アンカースクリュー」**という呼び方で統一して解説していきます。
以降は、簡単に「アンカースクリュー」と呼ばせていただきます。


そもそも歯科矯正用アンカースクリューとは?

歯科矯正用アンカースクリューとは、
口腔内の骨(歯槽骨)に一時的に埋入し、矯正治療における“固定源”として使用する小さなネジ状の装置です。

矯正治療では、歯を動かすために「力」を加える必要があります。
その際、歯を引っ張るだけではなく、
**「どこを支点(固定源)にするか」**が非常に重要になります。

この「動かない支点」として機能するのが、アンカースクリューです。


なぜ強力な固定源が必要なのか?

例えば、
**上顎前突(いわゆる出っ歯)**を改善する治療を考えてみましょう。

上の前歯を大きく後方へ下げるためには、
それに耐えうる非常に強力で安定した固定源が必要になります。

アンカースクリューが登場する以前は、次のような方法が用いられていました。

  • ヘッドギア
    頭や首に装着し、フェイスボウを介して奥歯を固定する装置

  • 複雑なワイヤーベンディング
    ワイヤーに細かい曲げを加え、奥歯を倒す力を利用して前歯を動かす方法

これらは、当時としては非常に工夫された治療法でしたが、
いくつかの大きな課題がありました。


従来の方法のデメリット

① 患者さんの協力が不可欠

ヘッドギアは、
毎日・長時間の装着が必要です。

しかし、

  • 忙しくて装着時間が短くなる

  • 寝るときしか使えない

  • 1週間に数日しか装着できない

といったことが起こると、
治療効果は大きく低下してしまいます。

つまり、治療結果が
患者さんの努力や協力度に左右されやすいという問題がありました。

② 術者の技量に依存しやすい

ワイヤーを複雑に曲げる治療法は、
高度な技術と豊富な経験が必要です。

そのため、

  • 術者によって治療結果に差が出る

  • 再現性が低い

  • 習得に長い時間がかかる

といった課題もありました。


アンカースクリューの登場による大きな変化

そこで登場したのが、
歯科矯正用アンカースクリューです。

アンカースクリューを骨に埋入することで、
常に安定した固定源を口腔内に確保することができます。

これにより、

  • ヘッドギアなどの装着が不要

  • 患者さんの協力度に左右されにくい

  • 常に一定の矯正力をかけ続けられる

といった、大きなメリットが生まれました。

特に、

  • 矯正治療への協力が難しい方

  • 長期間の治療で疲れてしまった方

  • 仕事や生活スタイル上、装置の使用が難しい方

にとって、
アンカースクリューは非常に有用な選択肢となります。


術者側のメリットも非常に大きい

アンカースクリューを使用することで、

  • 複雑なワイヤーベンディングが不要

  • シンプルで分かりやすい力の設計が可能

  • 治療結果の再現性が向上

します。

つまり、
術者による治療結果のばらつきが少なくなるという点も、
非常に大きな利点です。

かつて、矯正歯科医が長年夢見てきた
「シンプルで、確実で、再現性の高い矯正治療」が、
アンカースクリューの登場によって現実のものとなったと言えます。


現在のアンカースクリューはより安全・簡便に

初期の頃のアンカースクリューは、
処置が大掛かりで負担も大きいものでした。

しかし現在では、

  • 多くのメーカーから製品が開発・販売され

  • サイズや形状の選択肢が増え

  • 埋入・撤去が非常に簡便

になっています。

使用後は簡単に除去でき、体内に残るものではありません
この点も、患者さんにとって安心できるポイントです。


アンカースクリューのデメリット

非常に便利な装置ではありますが、
決して万能ではありません。

メリットだけでなく、
必ずデメリットも理解した上で使用を検討する必要があります。

① 外科的処置が必要

アンカースクリューの埋入には、

  • 局所麻酔

  • 骨に小さな穴を開ける処置

が必要です。

大きな手術ではありませんが、
侵襲的な処置であるという点はデメリットの一つです。

② 脱離(外れる)可能性がある

研究報告では、
4本埋入すると1本程度は脱離する可能性がある
とも言われています。

特に、

  • 上顎の頬側(ほっぺた側)歯槽骨

  • 歯根間距離が狭い部位

では、脱離が起こりやすい傾向があります。

一方で、

  • 下顎の歯槽骨

  • 皮質骨が厚く硬い部位

では、比較的脱離しにくいとされています。

矯正用アンカースクリューでよくある質問(FAQ)

 

Q1.アンカースクリューは痛くないですか?

よくいただく質問の一つです。
確かに多少の痛みはありますが、埋入時には局所麻酔を行いますので、処置中の痛みはほとんどありません

麻酔が切れた後は、軽い痛みや違和感を感じることがありますが、多くの場合、痛み止めを1~2回服用すれば落ち着きます

ただし、

  • 下顎の歯槽骨(特に皮質骨が厚い部位)
  • 上顎の口蓋部

など骨が硬い部位に埋入する場合は、痛みがやや長引くことがあります


Q2.歯ブラシはどうすればいいですか?

埋入後 1~2週間程度は、毛先の柔らかい歯ブラシを使い、強くこすらず丁寧に磨いてください

その後は、通常の矯正治療中と同様のブラッシングで問題ありません。

清掃状態が悪いと、アンカースクリュー周囲に炎症が起き、脱離の原因になることがありますので、毎日のケアがとても重要です。


Q3.食事で気をつけることはありますか?

はい、いくつか注意点があります。

  • 埋入部位の周囲で硬いものを強く噛み込まない
  • 粘着性のある食べ物(ガム・キャラメルなど)を控える

これらは、アンカースクリューに余分な力が加わったり、汚れが絡まって炎症を起こす原因になります。


Q4.治療が終わった後はどうなりますか?

矯正治療終了後、アンカースクリューは取り外します

歯肉は 1~2週間程度で自然に閉じますが、その間は

  • 辛いもの
  • 刺激の強い食べ物

が当たると、しみる原因になるため注意してください。

骨にあいた小さな穴はすぐには完全に閉じませんが、2~3年ほどかけて徐々に骨が回復していきます


Q5.途中や除去時に折れることはありますか?

私はこれまで、埋入時や除去時にアンカースクリューが折れた経験はありません

ただし、非常に稀ですが、折れてしまうケースが報告されているのも事実です。

先端が骨内に残った場合、

  • 周囲の骨を少し削って除去
  • 場合によっては口腔外科での処置

が必要になることもあります。

そのため、

  • 事前にCT撮影を行い、骨の厚み・形態を確認する
  • 骨が硬いと判断した場合は必ずプレドリリングを行う

これらは非常に重要です。
最終的には、術者の経験と判断力が安全性を大きく左右します


まとめ:メリットとデメリットを理解した上で選択を

歯科矯正用アンカースクリューは、

  • 矯正治療の可能性を大きく広げ

  • 患者さんの負担を軽減し

  • 治療の確実性を高める

非常に有用な装置です。

しかし、

  • 外科的処置が必要

  • 脱離のリスクがゼロではない

といった点も理解する必要があります。

事前にしっかりと検査・診断を行い、
メリットとデメリットを十分に説明した上で、
本当に必要な場合に使用することが重要
です。

本日は、
歯科矯正用アンカースクリューについてお話しさせていただきました。

矯正治療をご検討中の方は、
ぜひ一度、担当医にご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

関連記事