医院ブログ

2025/10/16

矯正治療で行う「珍しい抜歯部位」について

こんにちは。姫路はま矯正歯科院長の濱です。
今日は少し珍しいテーマについて書きたいと思います。
矯正治療の中で「抜歯」を行うことは決して珍しくありませんが、その中でも一般的ではない“珍しい部位の抜歯”について、実際にどんなケースで行うのかを解説していきます。

通常、矯正治療で抜歯を行う場合は、小臼歯(4番・5番)を選択することがほとんどです。これは、歯並びを整えるためのスペースを確保しつつ、見た目や噛み合わせのバランスをとるために最も適しているからです。
しかし中には、特別な理由があって別の歯を抜歯する必要がある場合もあります。今回は、そのようなケースを具体的にご紹介します。


1. 犬歯を抜歯するケース

犬歯は「キートゥース」と呼ばれる重要な歯で、噛み合わせの安定において大きな役割を担っています。
そのため、矯正治療で犬歯を抜歯することは非常にまれです。
しかし、例外的にやむを得ず犬歯を抜く場合があります。代表的な理由は次の4つです。

① 虫歯が大きく、保存が難しい場合
虫歯が進行し、根の治療や被せ物をしても長期的な保存が見込めない場合、犬歯を抜歯する選択をすることがあります。健康な小臼歯を残した方が、将来的に機能面で有利と判断されるケースです。

② 歯根しか残っていない場合
過去の治療で被せ物をしていて、歯の根しか残っていないような犬歯では、耐久性が低く、矯正中や矯正後にトラブルを起こすリスクがあります。この場合、未処置の健康な小臼歯を残す方が理にかなっています。

③ 強い叢生(歯の重なり)がある場合
犬歯が小臼歯の位置に入り込むように90度近く回転していたり、歯列の外側や内側にずれている場合、移動が極めて困難になります。このようなケースでは、犬歯を抜いて小臼歯を犬歯の代わりに機能させることがあります。

④ 埋伏している場合
犬歯が骨の中に埋もれていて(埋伏歯)、牽引しても適切な位置に出てこない場合があります。特に犬歯が反対方向に傾いていたり、上下逆に埋まっている「逆性犬歯」の場合は、牽引が難しく、抜歯を選択することがあります。


2. 上顎前歯を抜歯するケース

上の前歯は、最も目立つ歯です。そのため、矯正治療で抜歯を行うことはほとんどありません。
それでも、以下のような状況ではやむを得ず抜歯を行う場合があります。

① 虫歯や破折による保存不可能な場合
犬歯と同様に、虫歯や外傷で歯が根だけになっている場合は抜歯の対象となります。たとえば右上の中切歯(1番)を抜歯した場合、左上の2番を移動させて形を整え、見た目を補うことがあります。

② 補綴処置が困難な場合
被せ物をしても長期的な維持が難しいと判断される場合には、抜歯を行い、その後インプラントやブリッジで補うこともあります。
左右非対称の抜歯は噛み合わせに影響するため、慎重な診断と治療計画が必要です。

③ 側切歯を抜歯する場合
まれに、片側の2番(側切歯)がもともと欠損している方もおられます。その場合、反対側の2番を抜歯し、左右対称に整えることがあります。犬歯を2番のように形態修正して、見た目にも自然な仕上がりを目指します。


3. 下顎前歯を抜歯するケース

下の前歯を抜歯するケースは、上顎前歯よりはやや多い傾向があります。
特に「下の前歯が1本少ない(3インサイザー)」という生まれつきの歯列を持つ方もおられ、そのバランスに合わせて抜歯を検討することがあります。

① 歯の大きさの不調和がある場合
例えば、上の側切歯が非常に小さい「矮小歯(わいしょうし)」であると、上と下の歯列のバランスが崩れます。
そのような場合、下の前歯を1本抜くことで上下の歯の幅の比率(アンテリオールレシオ)を整えることができます。

② 骨格性上顎前突のカモフラージュ治療
上顎の突出が強く、通常の4本抜歯(上2本・下2本)では前後のズレが補えないケースでは、下の前歯を1本だけ抜く方法が有効な場合もあります。
この方法によって、上の歯との前後的な関係をバランス良く整えることができます。


4. 診断の重要性

これらの“珍しい部位での抜歯”を行う際に、最も大切なのは正確な診断です。
単に歯の並びだけを見るのではなく、次のような多面的な検査・分析が必要になります。

  • 模型分析:上下の歯の大きさやバランスを精密に測定

  • セファロ分析:頭部X線を使って骨格の前後関係や角度を評価

  • CT撮影:埋伏歯の位置や方向、根の形態を三次元的に確認

これらの情報をもとに、どの歯を残し、どの歯を抜くのが最も合理的かを判断していきます。

また、こうした特殊な抜歯を伴う矯正治療では、術者の診断力と治療技術の両方が非常に重要です。
治療の選択肢を多く持ち、患者さま一人ひとりの口腔内に合わせた柔軟な対応が求められます。


まとめ

今回は、矯正治療の中でも珍しい「犬歯」「上顎前歯」「下顎前歯」を抜歯するケースについてご紹介しました。
いずれの場合も、抜歯そのものが目的ではなく、将来的に健康で安定した噛み合わせと美しい歯並びを得るための選択肢の一つです。

抜歯が必要かどうかは、精密検査と専門的な診断によって決まります。
ご自身の歯並びや噛み合わせに不安のある方は、ぜひ一度ご相談ください。
一人ひとりに最も適した治療方針を一緒に考えていきましょう。

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