2025/10/23
こんにちは。姫路はま矯正歯科院長の濱です。
これまで数回にわたり、矯正治療に伴う「抜歯」についてシリーズでお話ししてきましたが、今回からは少しテーマを変えて、「矯正治療に使われる装置」について解説していきたいと思います。
矯正治療では、目的や歯の状態に応じてさまざまな装置を使い分けます。今回はその中でも最も基本的で、今なお多くの患者さんに用いられている「ブラケット装置」について、特に表側につけるタイプ、いわゆる「ラビアルブラケット(表側矯正)」を取り上げます。
装置の特徴やメリット・デメリットを理解していただくことで、ご自身に合った治療法を選ぶ参考になれば幸いです。
ラビアルブラケットとは、歯の表面(唇側)に取り付ける矯正装置のことを指します。
「表側矯正」「唇側矯正」などとも呼ばれ、最も一般的に使用されている矯正方法です。歯の表側に小さなブラケットという装置を貼り付け、そこにワイヤーを通して歯を少しずつ動かしていきます。
矯正治療の歴史の中でも非常に長く使われており、信頼性が高く、現在のさまざまな矯正システムの基礎となっている装置です。
ラビアルブラケットの最大の利点は、「歯を3次元的に正確に動かせる」という点です。
縦・横・前後といった複雑な方向のコントロールが容易で、歯の位置や傾きを細かく調整できます。
これは、アングル先生によって開発された「マルチブラケットシステム」によるもので、改良を重ねることで、より精密な歯の移動が可能になっています。
ただし、ブラケットの位置決めやワイヤーの微調整には高い技術力が必要で、術者の経験と判断が治療結果を大きく左右します。
矯正治療では、歯に強すぎる力を加えると、歯根や骨に悪影響を及ぼす可能性があります。
ラビアルブラケットでは、ニッケルチタンなどの形状記憶合金ワイヤーを使用することで、持続的で安定した力を加えることができます。
また、ステンレススチールワイヤーのような硬い素材を使うことで、歯の動きをしっかりとコントロールすることも可能です。
「安定した力を長期間にわたって加えられる」ことが、スムーズで予測しやすい歯の移動につながります。
ラビアルブラケットは世界中で広く使われているため、非常に多くのメーカーから多様な種類が市販されています。
その結果、装置自体の材料費が抑えられており、比較的リーズナブルな費用で治療を受けることができます。
オーダーメイドで作る特殊な装置と比べると、コスト面でのメリットは大きいといえるでしょう。
歯の裏側につける舌側矯正や、型取りして作るカスタム装置と比べると、ラビアルブラケットは直接歯の表面に装着するため、装置操作が非常にスムーズです。
術者にとって扱いやすいということは、結果的に治療精度の向上や治療期間の短縮にもつながります。
ラビアルブラケットは50年以上の歴史を持つ、非常に実績のある矯正装置です。
長年にわたり多くの症例に使用されてきたことで、治療のノウハウや方法論が確立されており、科学的根拠に基づいた治療が行えます。
多くの症例経験が蓄積されているという点は、患者さんにとって大きな安心材料と言えるでしょう。
最もよく挙げられるデメリットは「見た目の問題」です。
表側につけるためどうしても装置が目立ちやすく、日本では審美的な面から敬遠されることもあります。
ただし、近年では透明や歯の色に近いセラミックブラケット、白いワイヤーなどもあり、かなり目立ちにくくすることが可能です。
唇の裏側にブラケットが当たるため、慣れるまでに違和感を覚える方もいらっしゃいます。
場合によっては口内炎ができることもありますが、数週間で慣れてくるケースがほとんどです。
特に下顎の歯につけたブラケットは、咬み合わせの力が加わりやすく、食事内容や食べ方によっては装置が外れることがあります。
硬い食べ物を控え、装置に負担をかけないよう意識することが大切です。
ブラケットの周囲には汚れがたまりやすく、磨き残しがあると虫歯や歯肉炎のリスクが高まります。
矯正中は特に丁寧な歯磨きと、定期的なクリーニングが重要です。
どんな装置にも「得意・不得意」があります。
ラビアルブラケットにも適応の限界はあり、ケースによっては他の装置と組み合わせることが望ましい場合もあります。
大切なのは、「この装置しか使えません」と決めつけるのではなく、患者さんの状態に合わせて最適な装置を選択できるかどうか。
そしてその判断を正確に行うための診断力と経験が、術者に求められます。
矯正治療は装置そのものだけでなく、「それをどう使いこなすか」が結果を左右する治療です。
装置の特徴をよく理解し、信頼できる矯正専門医のもとで治療を進めることが、理想的な歯並びへの近道だといえるでしょう。
ラビアルブラケットは、最も歴史があり、安定した結果を得やすい矯正装置です。
一方で見た目や清掃性などの課題もありますが、素材や技術の進歩により、そのデメリットも徐々に解消されつつあります。
矯正治療を検討されている方は、装置の特徴を知ったうえで、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
次回のブログでは、また別の装置「裏側矯正(リンガルブラケット)」について詳しく解説していきたいと思います。
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